本当にあった怖い話・不思議な話


★★★★★
五つ星怪談







☆━━━━ 【 沖のブイ 】 ━━━━☆




 私が中学生のときの話。

 当時、父は中小企業の社長をやっていて、会社の人を連れて

 よく小旅行をしていた。



 ある年の夏、自分の家族と会社の人の家族十人ほどで、

 一泊二日の海水浴に行くことに。



 夜もまだ明けきらない薄闇の中、車で出発。

 朝早く出たので、道路は空いていて順調に目的地に着いた。

 神奈川県の真鶴という町の海水浴場である。



 夏の陽射しはきつく、絶好の海水浴日和だった。

 ちょうどお盆休みで、海水浴場はまさしく芋洗い状態。

 私は人ごみを避けて海に入り、人のいないところまで泳いだ。



 私は小学生の頃からスイミングクラブに通っていて、泳ぎには

 かなりの自信を持っていた。



 数百メートルほど泳いだだろうか?

 海水浴場は遊泳場所を示すために、オレンジ色のブイが設置され

 ている。



 あれはかなりの浮力があり、大人が二、三人乗ったくらいでは

 沈むことはない。



 私はそのブイまで泳いでいき、ブイに掴まったまま岸の方を向い

 てプカプカと浮いていた。

 岸がハッキリと確認できるくらいのところである。



 (すごい数の人だなぁ……)

 そんなことを思いながら、ぼんやりと休憩していた。



 それは突然だった。

 急に自分の体が、海の中に一気に沈んだ。

 ブイごと海中にもっていかれてしまった。



 足が攣ったのなら、ブイに掴まっているので溺れることはない。

 それとは違い、物凄い力で海中に引き摺り込まれたのだ。

 そして、その時、私は見てしまった。




 
 若いのか老いてるのかもわからない、
              
髪の長い女のような影を。




 顔に当たるところには、両の目らしきものが見える。

 しかし、見えるのは≪目≫だけ。

 目は光っていた……ような気がするが、定かではない。



 そいつは私の足首をしっかり掴んで、グイッグイッともの凄い

 力で引っ張っている。



 何が起きているのかわからなかった。

 とにかく、必死で蹴飛ばし、もがき続けた。



 なんとかそれを振り切って、海上に顔を出すことができた。

 水を呑んだのか、思いきりむせて激しく咳をした。

 涙も止まらず、息絶え絶えの状態だった。



 それでも、そこから一刻も早く逃げようと思った。

 泳ごうと辺りを見回して唖然とした。

 なんと、どこにも岸が見えなかった……。



 幸い、近くで船釣りをしていた人に発見してもらった。

 「キミ、こんなところまで泳いできたのか?」

 あきれたような顔つきで驚かれた。



 船べりに掴まったまま、今起きたことを話した。

 すると、何も言わずに船に乗せてくれた。

 地元の人らしいが、私の話を聞いてからはなぜか無言になった。



 船で移動しても、すぐには岸は見えてこなかった。

 海中で引き摺られていたのは、どんなに長くても一、二分。

 人間、そんなに息が止められるものではない。



 私はどれほど引っ張られたのだろう……。

 あのブイはどうなったのか、私の見たものは何だったのか。

 地元の人が何もしゃべらなくなった理由は何なのか……。



 幾つも疑問は残るが、今となっては真相はわからない。

 私はそれから一度も泳いでいない。

 もう何年も、海だけではなく、泳ぐこと自体をやめている。



 水に入ろうとすると、なぜか≪警告≫のようなものを感じる。

 そして体の調子がおかしくなるのだ。

 いつか、この体の異変は治るのだろうか……。


                  


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 ■投稿:JUNさん(男性・神奈川県)

 ※五つ星級の怖さ、不思議さのある怪談です。多くは出版物に掲載されました。
 ※投稿のストーリーを変えることなく、雲谷斎が加筆・執筆しました。

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