本当にあった怖い話・不思議な話


新・泣ける怪談






「泣ける怪談」の新作です。
大好評だった単行本「泣ける怪談」と共にジーンとしてください。









「帰郷」



  父がまだ10歳くらいのときのこと。


 父は東北の農家の出身。
 昔の農家は風呂やトイレは外にあった。
 いわゆる雪隠というやつである。


 ある夜、トイレに行きたくなり、一人でおずおずと外に出た。
 手早く済ませて、家に入ろうとすると何かの気配がする。


 ふと後ろを振り返り、周りを見渡してみた。
 すると、月明かりの中、隣の家の庭先に誰かがいた。


 その家の長男らしく、ぼんやりと立っている後ろ姿が見えた。
 遥かな山の方を眺めて、煙草を吸ってるような感じだった。


 「あ、隣のお兄ちゃんだ……」
 知ってる人だったので、ちょっと安心した。


 真夜中だし、寒く眠たかったのですぐ家に入ろうと思った。
 ところが、扉を開けようとしたとき、急に背筋がゾクゾクした。
 あることを知ってしまったのだ。


 もの凄い恐怖感に襲われ、ガタガタ震えながら家の中に逃げた。
 布団にもぐりこんでも震えが止まらない。
 怖くて怖くて泣きそうだった。


 隣のお兄ちゃんが立っていた辺りは急斜面になっている。
 そこにフワッと浮くように立っていた。



 人がそのように
 立つことなど出来る訳がなかった。



 しかし、間違いなくお兄ちゃんはそこにいた。
 朝になって冷静に思い出すと辻褄が合わない。


 隣のお兄ちゃんは、兵隊にとられて南方に出征しているはず。
 帰国したという話は聞いていない。
 あれは夢だったのかと思うようにした。


 それからしばらくしてだった。
 隣家に、長男の戦死の通知が届いた。


 お兄ちゃんは、故郷に帰ってきたかったのだ。
 生まれ育ったこの地の風景と家族の住む家を、
 もう一度だけ見たかったのだと思う。


 太平洋戦争での日本軍および軍属の死者、310万人という。





  投稿 peterさん(男性)
 ※メルマガ等掲載にあたり、雲谷斎が原文を全面的に訂正執筆しています。









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