本当にあった怖い話・不思議な話
逢魔が時物語


<読者のコワイ体験談>

【逢魔が時メルマガ2010.4月 ランキンランキン第1位 53.20点





−フォールディングチェア−


■■■愚蛇さん(男性)からの投稿■■■





 一人暮らしを始めた。
 部屋にはパソコンとベッド、食事をするためのローテーブルが一つ……
 そんなものだ。

 「使っていないテレビを持ってきてやろうか」

 という申し出もあったが丁重にお断りした。

 もともとテレビは観ないし、静かな時間が欲しくて此処に越してきたのだ。
 ……とは言え、「侘」を通り過ぎて「侘しさ」を感じる今日この頃……。

 そんな折、何気なく見ていたオークションサイトで洒落たつくりの椅子に
 目を惹かれた。

 飴色のピッグスキンの一枚革を、細いメタルフレームで張った
 フォールディングチェア……。

 これがあれば、この閑寂とした部屋にも彩が生まれるかも知れない。

 あまり物には頓着しない私だが、無性にこの椅子が欲しくなり、
 朝までモニターの前に張り付いてその椅子を落札した。

 数日して待ちに待った荷が届き、早速解いた梱包の中には
 椅子と一緒に一通の封筒。

 出品者からの手紙と椅子と同じ綺麗な飴色の革の財布が入っていた。

 手紙には自分の想定していた価格より上回った額で買って頂いて有難い、
 という感謝の辞があり、ささやかではあるがおまけとして余った革で
 作った財布を贈るとの旨が綴られている。

 その夜、手紙に記載されていたメールアドレスに返礼のメールを送った。



 
椅子は思っていた以上に快適、いや、官能的ですらあった。



 ゆるく傾斜の付いた背もたれに身をあずける。
 柔らかな革の肌触りはまるで恋人の抱擁のようだ。
 部屋に居る殆どの時間を私はその椅子に包まれて過ごした。

 驚いたのはこの椅子が素人の作品であるということだ。

 出品者とのメールのやり取りで知った事だが、仕事としてではなく、
 あくまで趣味で制作したものだという。

 趣味なのでゆっくり時間をかけてつくる……だからこその出来栄え
 なのかと私は一人得心した。

 もっとも、良い素材を吟味して作るので、どうしても寡作になってしまう
 のだそうだ。
 そんな中の一点を運良く入手出来た私は果報者だろう。


 椅子の製作者との交信は暫く続き、そのうち酒でも酌み交わそうと
 盛り上がっていたのだが……その酒宴は果たされることはなかった。

 ある日、私の部屋を訪れた警察官から椅子の製作者が逮捕されたと
 告げられた。

 そして、メールの通信履歴と作品の落札者リストに私の名前があった
 ことから事情聴取をお願いしたい……と。

 任意と言われつつも、ほぼ強制的にその場で連行された。
 捜査の結果、私への嫌疑は晴れたのだが……。

 オークションで買った椅子は、証拠物件として押収されるという。
 どうしてもあの椅子への想いが断ち切れず、どうにかして返却は叶わない
 だろうかと問うと、

 「ふざけるなっ! 遺族の気持ちも考えろっ!」

 と一喝されてしまった。

 とぼとぼと歩く帰り道。
 帰宅してもあの部屋にはもう椅子は無いのだ……。

 寂寥感がひしひしとのしかかって来る。
 ポケットの中を探り、すべすべした財布の皮を撫で愛しむ。

 今ではこれが、椅子を無くした私にとってのささやかな慰めだ。


                         (「感」カテゴリー)


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          ★雲谷斎のイッチョ噛み★

                ▼

「皮膚感覚と言うたらええのかなぁ……異性とも言うべき椅子の感触に
 触れたくなるような文章やなぁ。おみごと! 文学してますねぇ」
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