本当にあった怖い話・不思議な話
逢魔が時物語


<本 編-2009>






∴‥∵‥∴‥∵ バレンタインチョコ ∵‥∴‥∵‥∴


投稿:Hiさん(男性)
編集:雲谷斎



知り合いが高校生の時、先生に聞いた話。

先生といっても、大学を出たばかりの新任の講師だった。
歳が近いことと、時々怖い話をしてくれるので生徒に人気があった。


そのA先生が山形県で高校生だった頃、クラスの親しい友人B、Cと
バレンタインデーの狂言を企んだ。

舞台となったのは、とある地方小都市の公立の進学校。

時代なのか、地方小都市の進学校ということによるのか、
その先生の高校時代、バレンタインデーにチョコレートを貰えるのは
一部のスター的な生徒に限られていた。

だから、バレンタインデーといっても、男子も女子もなんとなく
ワクワクソワソワしつつも、結局何事もなくその日が過ぎ去って
いくというのが、その高校での毎年のパターンだった。

A達三人、そんなつまらない状況を打開すべく……と思ったかどうかは
不明だが、バレンタインデーが近づいたある日、彼らは連れ立って
密かにチョコレートを買いに行った。

そう、つまりチョコレートを自分で買って、学校の自分の机に隠し、
バレンタインデー当日に、

「あれっ! 俺の机にチョコレートが! いや〜まいったなぁ〜」

「おっ! お前にもか? 俺もだよ! いや〜まいったまいった」

「なんだお前らもかよ。俺も入っててさぁ。いやぁ俺達やっぱ
 もてるんだなぁ〜」

ってやるつもりだった。

各自のセリフまであらかじめ考えて、それをやったというのだから
笑える。もちろん単なるウケ狙い。

いつもつるんでいる馬鹿三人組にだけ、チョコレートがプレゼント
されるなんてことはないことなど、クラスのみんなにはすぐわかる。

まぁそんなことで、一年後に迫った大学受験の重圧をひと時でも忘れ、
バレンタインの楽しい気分を少しでも味わいたい、というところだった。

チョコレートを買ったら、Aの家で各自ラッピングである。
バレンタインのチョコレートだから、買ったスーパーのレジ袋入り
というわけにはいかない。

それぞれ趣向を凝らしメッセージまで添えて、もう準備万端。
当日が楽しみだった。



  前日の放課後、
  各自さりげなく自分の机にチョコレートを隠す。

  あとは明日登校する時間の確認だけ。



早く来すぎるとみんながいないし、かといって遅すぎるとホームルーム
が始まってしまうので、お楽しみの時間が短くなってしまう。

しかし、そこは県下でも有数の進学校の生徒。
たちまちベストな時間を計算し、いよいよ明日を待つばかりとなった。

二月十四日の朝、三人揃って教室に入る。
いつも通りのだるそうに手を上げる挨拶。

密かに想いを寄せている女の子には、
「あ、俺チョコレート一枚でいいからね」
なんて哀しい軽口をたたくことも忘れずに席に着く。

セリフはA、B、Cの順と決まっていた。
何気なく、いつも通りにまわりの友人に冗談を言いつつ席に着き、
そっと机の中をさぐる。

大丈夫。指先に触れるラッピングの紙。
Aはセリフが最初なのでかなりドキドキしている。



 
 「うん!? 何だこれ……あれっ、わっ!
  俺の机にチョコレートが! いや〜まいったなぁ〜」




いっせいに、Aの方をクラスのみんなが呆気にとられたように見る。
一瞬の沈黙の後、驚きの声が沸き起こる。

「マジかよ!」
「うっそぉぉぉ!」

反応はバッチリ。そして次はBの番。

「なんだよっ! A、お前にもかよ! いや俺もだよ! 
 いや〜まいった。まいった」

Bはそう言って立ち上がり、Aの方に、そしてみんなにチョコレート
の包みを見せびらかす。
もう教室中、男子も女子も大騒ぎである。

「えっ何!? チョコレート!? 本当〜?」
「なんでAとBなんだよ!」

「バーカ! 信じんなよ。AとBだぜ。テメェらでやってるに
 決まってんじゃん」

どうも早々と見破ったヤツもいるようで、こりゃヤバイとAとBは、
Cに視線を走らせる。
肝心なのはCのセリフなのだ。

Cの「いやー、俺達って、やっぱモテるんだなぁ〜」っていう
白々しい、いかにもなセリフがオチなのだ。

ところが……。
その肝心のCが、いつまでたってもそのセリフを言おうとしない。
見れば、席に座ったまま何やらボーッとしているばかり……。

教室の中に渦巻く歓声の中、もうこうなったらとAはCに声をかける。
「おい、C! オレとBは机にチョコレートあったけど、お前は?」

言った瞬間、それってなんかバレバレじゃんって気がついた時には、
もう間に合わない。
視界の端には「バカ……」と顔をしかめるBの顔。

「えっ? ああ、ああ……」
ガタンと席を立ちCが言った。

「うん……。あっ、いや、えーと……。お、俺も入ってたぜ。
 いやぁ俺達やっぱモテるんだなぁ」

それはもうほとんど棒読みに近くって……。
もうクラス中大爆笑。

「さっすが! バカ三人組! やってくれるぜ」
「さっすがー! AクンもBクンもCクンもサイコー!
 わたし、来年はチョコレートあげちゃうかもー」

「おい、A! 俺んとこにもチョコレートあったんだけど、
 一応言っといた方がいいかな?」

クラスを沸かせるという目的はまぁ達成できたわけだが、
そうは言ってもAもBも納得できるわけがない。

先生が来たこともあり、その場はそこまで。
AもBも休み時間になったらCのことをどうしてくれようかと、
考えるのはそればかり。

「てめぇー、ちょっと来いよ!」
休み時間になるなり、AとBはCを外に連れ出した。

その様子を見ているクラスのみんなは、もうニヤニヤが止まらない。
三人が教室に出た途端、堪えていたものが大爆笑となって
廊下にまでこだましている。

「お前さぁ、何やってるわけ?」
「あれじゃ、全然面白くねーじゃんよ!」
Cに詰め寄るAとB。

「悪かったって……。たださ、ちょっと変なことがあってさ……」
「なんだよ。変なことって!」

「チョコレートの包みがもう一つあってさ……」
「……!?」

Cが言ったことを理解するには、AもBも少し時間が必要だった。

「バッカヤロー! なんだよそれっ! テメェーだけ本当に
チョコレート貰ったってことかよ! ざけんじゃねーよ!」

思わず二人して左右からCに回し蹴り。

「痛ぇーなバカ! 話、最後まで聞けよ。そのもう一つのチョコ
 レートっていうのが変なんだよ。それでマジ焦っちまってさ……。
 朝の一件は確かに悪かったって。でもさ、ホント変なんだって」

実は、この時のCときたら顔色は真っ白。
話し方もいつもと微妙に違っていた。

だが、朝のお楽しみの失敗と、Cだけチョコレート貰ったという
ことで頭に血が上っているAとBにはそこまで気が回らない。

「変って、何が変なんだよ? チョコレートが腐ってたのかよ!」

「チョコレートが腐るかバーカ! とにかくよ、話をしたら長く
 なるから昼休みまで待てよ。どういうことなのかオレもゆっくり
 考えたいんだよ」

その時になって、やっとAとBはCの感じがいつもと違うことに気が
ついた。

「お前、そういえば顔色が変だぜ。なんだよその顔……」
「うん。とにかく昼休みにしようぜ」

昼休みまでの時間は長かったような、短かったような。
三人のチョコレート事件のことは、授業中まで話題になった。

授業に来る先生、来る先生、必ず最初に言うことは、
「今日、チョコレート貰ったか?」だったからだ。

その度にクラスは大爆笑。
誰かが先生に朝の一件を話し、再び大爆笑。
もっとも、それくらいでへこむようなA達ではないのだが……。

「これなんだよ」
やっときた昼休み。
CがAとBを連れて来たのは、屋上へと続く階段の踊り場。

床にペタンと座ったA、B二人の前に出したものは、
三人がスーパーで買ったチョコレートとは似ても似つかない、
いかにも本命チョコって感じの小箱。

「スゲー! オレもいつかこんなの貰いてーなー」
「そういう話じゃねぇだろ! まずはこのメッセージカード見てくれよ」

Cは二つ折りになったメッセージカードを渡した。

「どれどれ…。えー、『Cぴょんへ』。ハハハ! なんだこれ。
 Cぴょんへ。ハハハハ、ダメだぁ、力が抜けるぅ。
 Cぴょんへって……Cぴょんって誰だよ? やっぱお前のことか?
 は、は、腹痛てぇ!」

「Cぴょん」にすっかりハマったAとBは、しばらく笑いが止まらない。

やっと笑いが治まったAとBだが、よくよく考えてみれば、
これはつまりCを「Cぴょん」などと可愛く呼んでくれる彼女がいる
ということになる。

「何だよお前! 結局自慢かよ!」
詰め寄るAとB。

「だから、話は最後まで聞けよ。このCぴょんなんだけどよ、俺のこと
 Cぴょんって呼んだヤツは一人しかいねぇんだよ。俺は幼稚園まで
 D市に住んでたんだけど、その時近所に住んでいた幼馴染の女の子。
 その子だけなんだよ」

「てことは何か? その幼馴染の女の子がこの高校にいるってことか?」

確かにD市ならちょっと遠いものの、この高校に通えないこともない。
A達のクラスにも、D市から通っている生徒がいたはずだ。



「そんなわけねぇんだよ。だって、あの子は小学校の時に
 病気で死んじまったんだから……」





「バーカ。やめろよ。それじゃまるで幽霊じゃねぇか」
「勘弁しろよ。お前、幽霊にバレンタインデーもクソもあるかよ!」

Cの話にちょっとゾクッときて、肩をすくめつつAとBが言った。

「お前、そんな話わざわざこんな寒い所で言うなよ。なんだか薄気味悪く
 なってくるだろ。それでなくっても寒いのによぉ」

普段は蛍光灯を消している屋上へと通ずる階段の踊り場。
下からの誰かが騒ぐ声が、フィルターでも通しているかのように
はるか遠くに聞こえる。

「誰かさぁ、やっぱり幼馴染だった他の奴がこの高校にいてさ、
 そいつが悪戯したんじゃねぇの?」
「確かにな。俺もそんなところかなぁとは思うんだけどよ、
 ひっかかるっていうか、変に気味が悪いのがこの住所でさ……」

Cはそう言って、今度は箱の後ろの製造明細を記したシールを
指差した。

「E洋菓子店 Y県D市○△1-2-34。なんだよ? この住所が
 どうしたんだよ?」

「この住所、その子の家の住所なんだよ」
「なんだぁそれ? よくわかんねぇよ。どういうことなんだよ?」

チョコレートを製造した店の住所と、
亡くなったというCの幼馴染の家が同じ住所。

ということは、その幼馴染の子の家が最近洋菓子屋を始めて、
Cにその子の名でチョコレートを贈ったということなのだろうか?

いや、そんなことがあるわけがない。
AもBもなんだか頭がこんがらがってきた。

「この洋菓子屋の住所見た瞬間さ、これってたぶんあの子の家の住所
 じゃないか? って気がしたんだよ。住所覚えてたわけじゃない
 けどさ、前の俺んちの住所とほとんど同じだからさ。
 でさ、さっきの休み時間に、この店に電話かけてみたんだよ」

「おっ、なるほど。それで?」
「電話出たの、その子の親だったのか?」

「いや、彼女の家は確かD市の別の所に引っ越したって聞いたから
 親が出るわけねぇんだ。電話に出たの知らない人だと思うし、
 何よりこのEって、彼女の家の苗字と違うし……」

「そんなこと言ったって、このEが苗字とは限らないだろ?」
「だから、それも聞いたんだって。順番に話しさせろって」

Cは、その店に客を装って電話をしたという。

そのチョコレートの商品名を言って、店に買いに行きたいんだけど
道順を教えて欲しいっていう風に。

「以前その辺に住んでいたので、だいたいの土地勘はあるんですけど、
 この住所だと、たしか以前○○さんが住んでいた家の住所だと
 思うんですけど……」

幼馴染の子の苗字をそれとなく言ってみたが、相手は
「○○さん? さぁ……?」と言うばかり。

よくよく考えれば変な電話である。
土地勘があるのなら、電話で確認する必要もないわけだから。

「ちょっとお待ちください。主人に代わりますんで」
そう言って、相手は主人だという男の声に代わった。

「もしもし。○○さんっていうのはよくわからないだけどさ、
 ウチがここ始める前は牛乳屋さんだったっていうのは聞いたけど、
 それでわからないかい?」


何かがガツーンとCの体を突き抜けた。
幼い頃のことが脳裏に蘇る。

そう、幼馴染のその子の家に遊びに行っては、おやつに商売物の
フルーツ牛乳やヨーグルトをご馳走してもらったことを……。




店先に積み上げられた木製の牛乳ケース。
その木製のケースに染み付いた牛乳の発する匂い。

店に入ると金属製の大きな冷蔵庫があって、幼馴染の子のお父さんが
ニコニコ笑いながら牛乳をCに手渡してくれて……。

その横では、粗末なパイプ椅子に腰掛け、足をブランブランさせながら
笑って牛乳を飲んでいる幼馴染のあの子。

そう、あの子の家は確かに牛乳屋さんだった。
「もしもし、もしもし……」
どのくらいそうしていたのだろう?

受話器から聞こえる声に、Cは我に返ると、
「あ、はい。あ、そうそう。うん、牛乳屋です。そう牛乳屋さん。
 わかりました。ありがとうございます」

「どうします? 商品お取り置きしときましょうか?」
「えっ? あ、すみません。今日は学校なんで、また今度……」

「なんだかわかったようなわからない話だなぁ」
「うん。ただ、チョコレートくれたのがその幼馴染の子だとしてもだぜ、
 なんで今年なんだよ?」

Cの話を聞き終え、ちょっとため息をつき気味にAとBはそう言った。

「あのさ、こう言って気を悪くしたんなら謝るけどさ、なんかこう
 気味が悪いっていうより、ちょっと気持ちが悪い話だな」

そう言うAにCも素直に頷く。

「うん。そうなんだよ。どう考えたって変だろ?」
「まぁさ、わかんねぇよ。それより、この後何があるのか?
 それから、来年もまた貰えるのか?」

Bのその呟きに、思わずビクッと背筋を伸ばすC。

「お前、やめろよぉ」
そのことに今更ながら気がつくC。

そのCの肩にポンっと手を置きAが言った。
「まぁさ、来年はともかく来月だよ。来月の十四日どうすんだよ?
 ホワイトデーはよぉ?」


結局、C君の元に届いた、その謎のバレンタインのチョコレート。
後にも先にもそれ一回きりだった。




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       <本編「バレンタインチョコ」データ>

 ■原作投稿者:Hiさん(男性)
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 投稿された話を大切にしながら、雲谷斎が加筆・執筆しました。
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