本当にあった怖い話・不思議な話
逢魔が時物語


<本 編-2010>






∴‥∵‥∴‥∵ 見張り小屋 ∵‥∴‥∵‥∴


投稿:すえちゃんさん(男性・山梨県)
編集:雲谷斎



麓から続く九十九折れの道を登ると、山の上に集落がある。

観光地の近くにある集落で、土産物屋などが軒を連ねている。



地元の走り屋が、この集落に続く道に目をつけたことがあった。

ヘアピンカーブが続き、夜間は車などほとんど通らない

絶好のワインディングロードである。



週末になると、爆音を轟かせて走り屋たちが走りまわった。

住民はたまったものではない。

週末の度、眠れぬ夜を強いられることになった。



市街地から離れているので、爆音がし始めてから通報しても、

警察が到着する頃には、彼らは雲散霧消している。



警察が張り込むこともあったが、走り屋たちは狡猾だった。

偵察にでも来ているのか、警察がいる夜は姿を見せない。



そして警察のいない週末になると、爆音の渦が集落を包み込む。

いわゆるいたちごっこだった。



一計を案じた村人たちは、私費を投じて麓の空き地に見張り小屋

を建てることにした。

走り屋たちに見つからないよう、山道から少し離れた空き地である。



監視者はここに待機し、壁に開けた小さな穴から外を覗く。

走り屋が山道を登り始めるのを確認したら、近くの公衆電話にから

警察に通報するという作戦である。



これは功を奏した。

いち早く駆けつけた警察は次々と走り屋を検挙し、

彼らを一網打尽にした。



一ヶ月もすると、集落は再び静かな夜を迎えることができた。

だが念のため、しばらく週末の見張り小屋での監視は続けた。



そしてこれが、恐怖の第二夜への幕開けとなった。
 


初めの夜の監視者は臆病な男だった。

臆病ではあるが、走り屋と戦うという使命感に燃えていた。



だが、もう走り屋が来ることはない深夜の見張り小屋に、

たった一人でいる底知れぬ不気味さが堪らなかった。

男は一刻も早い夜明けの訪れを待ち望んでいた。




     ……と、カツンッ! 音がした。
    




見張り小屋の屋根の辺りだった。

深夜の静寂の中、乾いたその音は、実際より何倍も大きく聴こえた。



(え、何だろう……?)

身を硬くして訝る彼の耳に、もう一度カツンッという音が聴こえた。

幻聴ではないと思い知らせるようなタイミングだった。



どうやら、屋根に小石が当たっているようだった。

誰かが悪戯で投げているのか?

さては、排除された走り屋の残党が仕返しに来たのだろうか?



臆病な男は外に出て確かめることができなかった。

小屋の中で仮眠用の毛布にしっかりと包まった。



夜が明けるには、まだ果てしなく遠かった。

毛布の中で震えながら、見張り番を引き受けたことを激しく後悔した。



その夜は、同じ現象が何度か繰り返された。

ついぞ投石の主を確定することができぬまま、

一睡もせずに朝を迎えることになってしまった。



次の週末、今度は豪胆な男が監視者になった。

彼は前週の監視者だった臆病な男から、不思議な投石のことを聞いて、

一笑に付していた。



たかが小石の投石ごときで、大の男が尻尾を巻いたというのは

かなり情けない話である。



(よし、俺がひっ捕らえてやるよ!)

意気揚々と、その夜の見張り番に出かけて行ったのだが……。



夜が更けるにつれて、緊張がつのってくる。

時計の針が深夜を指した頃、その音は聴こえた。



カツンッ……!

深夜になるのを待っていたかのように、屋根に小石が当たる音がした。

静まり返った小屋の中に、意外と大きく響き渡った。



「誰だ!」

豪胆な彼はそう叫ぶやいなや、護身用の金属バットを手に、

小屋の外に躍り出た。



しかし……、

そこには果てしない夜の闇、無人の闇が広がっているだけ。



辺りを隈なく探したが、人の気配はまったくなかった。

首を傾げながら小屋に戻った彼を待っていたのは、

あざ笑うかのごとく再開された小石の投石だった。



その度に、バットを片手に血相を変えて飛び出すことの繰り返し。

いつも彼の眼前には、茫漠とした闇ばかりであった。



このままでは犯人を特定できない……。

頭を抱えていたが、ふと彼は気づいた。



「そうだ! 小屋の壁に見張り用の覗き穴があったんだ」

投石犯人を捕まえることに夢中で、覗き穴の存在を忘れていた。

静寂の中、彼は息を凝らして次の投石を待った。



カツンッ!

待ちわびた投石の音が響いた。



おあつらえ向きに、覗き穴の方角から飛んできたように思えた。

そろりそろりと、穴の空いた壁に忍び寄る。



音を立てないように、穴を塞いでいる板を静かにスライドさせ、

小さな穴から外を覗いた。

……と、そこには。



薄い壁板一枚を隔てて、わずか三センチほど向こう側から、

同じようにこちらを覗き込む、真っ赤に充血した目があった……。



前にも言ったように、彼は豪胆な男である。

しかし、次に彼が我に還ったのは、翌朝のことであった。



その後、見張り小屋は撤去されてしまい、今は跡形も残っていない。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 
       <本編「見張り小屋」データ>

 ■原作投稿者:魔物怪さん(男性)
 ■2010年度 読者が選ぶランキンランキン第5位  69.12点
 (2010年発行逢魔が時物語」メルマガ掲載話の読者採点結果)

 投稿された話を大切にしながら、雲谷斎が加筆・執筆しました。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜






本、CDなど、コワイもの逢魔売店にあります


本当にあった怖い体験談を募集しています
読者3万人が震えるメルマガ逢魔が時物語