本当にあった怖い話・不思議な話
逢魔が時物語


ここは「異」の部屋です





−ヘビ館/1−


          ■■■M・Yさん(男性)からの投稿■■■



   このお話は、実は数少ない私の体験記の中で、未だに明瞭に記憶している
   奇妙な話だが、実際にあった事実だし、訳あって公言できなかったため、
   未だに封印を余儀なくされていたのだが、今回この館がなくなり駐車場に
   なってしまったので勇気を持ってここに公開しよう。

   私がまだ武蔵野美術大学の学生で、希望に燃えて描画技術に切磋琢磨して
   いた、そう、かれこれもう二十年も昔の出来事だ。

   親父が九州のYへ転勤になり、すばらしい貸し家が格安で見つかったという
   ので、夏休みは水郷でスケッチにいそしもうと楽しみにしていた。
   スケッチブック片手にいそいそと里帰りし、その家を見て度肝をぬかれた。

   古びてはいるが、がっしりとした風格のある立派な純日本建築の家で、
   門柱、敷石、格子戸と続き、玄関の開き戸を開けると、使い込んで黒光り
   した廊下がまっすぐに奥へと続いていた。

   懐かしがるお袋の挨拶もそこそこに、「すごい家だねえ」と感心しながら
   客間に案内されてさらに驚いた。

   十畳ほどの部屋の一角の壁一面には、観音開きのバカ長い豪華な仏壇が
   神々しく輝いていたのだ。
   さらに奥へと進むと台所、トイレ、風呂と続き、一番奥には回廊で囲まれた
   奥座敷があった。

   そしてその座敷から見渡せる庭園には、一本数千万円はするだろうと
   思われる松の木三本を中心に、しっかりした庭師による造形美がしっとりと
   佇んでいるのである。

   「こりゃあ、すごい物件を見つけたね」と、有頂天になって喜んだ。
   お茶を飲み、ありきたりの近況報告を早々に済ませ、さっそく北原白秋の
   ふるさと水郷Yを探索してみようと、スケッチブックを片手に出かけた。
 
   ちょうど、隣りがうなぎ屋の駐車場で、青年と小学生がキャッチボールを
   していたが、何食わぬ顔でじゃましないようにと、気を使いながら通り
   過ぎようとした。

   そのとき、その青年が足早に近寄ってきて「あんた、Yさんとこのボンボン
   やろ。東京の美術学校行っとるんやろ。友達になってーな」と言ってきた
   のである。

   聞けばその人はOくんと言い、友達になりたくて私が帰ってくるのを待って
   いたというのだ。
   絵に興味があるのかなあ…などと、漠然と考えながら「良いですけど」と
   返事をすると、東京のこといろいろ聞きたいのでさっそく喫茶店に行こうと
   誘われた。

   私も柳川のことをもっと詳しく知りたかったし、ちょうど良いチャンスだと
   応じた。
   喫茶店にはいると、何にするとも聞かずに「コーヒー二つ!」と言い放って
   座った。

   なんだか少し妙だとは思いつつも、芸能人の誰にあったことがあるかとか、
   とりあえずどうでもいいような話で時を過ごした。


   やおら、なんの脈絡もなく「あんたボーリングできるか」と聞かれたので、
   「まあ、人並みには…」と答えると、まだコーヒーが半分以上残ったまま
   なのに「出よう、ボーリングに行こう」と立ち上がった。

   まったくせっかちな人だなあと思ったが、初対面だし文句も言わず、
   とにかくついていった。
   自転車に二人乗りをしてボーリング場につくと、さっそくゲームをはじめた。

   はじめたのだが…。第一投、運良くストライク。
   とりあえずかっこいいとこ見せられてよかったと、相手の拍手を期待して
   笑顔で振り返ると、なんだか様子が変なのである。

   よく見るとボールをかたづけている。
   なんか気にさわったのかなあと、心配して聞くと、
   「あんた、うまいなぁ。もう、ええんや。ボーリングは終わりや」と、
   そそくさと帰ろうとしているのである。これにはあせった。

   「帰ろうって、まだ1ゲームもしていないのに」と言うと、
   「ええんや、1投ぶんだけ払うから」とカウンターへ行き、小銭をジャラッ
   と置いた。

   どうも釈然としないが、さして怒っているという訳でもないし、今度は自分
   のアパートで音楽でも聞こうと言い出した。


   このあたりから、なんだかおかしい、ちょっと常識では考えられないと、
   不安になりだしたが、かりにこのOくんが襲ってきたとしても、あきらかに
   私の方が強いという自信があったので、もう少し様子を見ることにした。

   幸か不幸か、彼のアパートは私の家の隣であり、窓からは私が今晩寝る
   二階の部屋がすぐそこに見通せた。
   初めての土地とはいえ、いざとなればすぐに帰れるという安心感が、きっと
   私を大胆な行動にかりたてたのであろう。

   そこでもいろいろと細かい変なことがあったのだが、ここではあまりくどい
   ので省かせていただく。
   何だか話がうまくかみ合わないなあと、いささか退屈気味になっていた時に、
   部屋の片隅を見て思わず顔がほころんだ。

   そこには埃まみれになっているとはいえ、ちゃんとしたギターがあった
   のである。
   私は、当時大学でフォークソング部の部長をしていたほどギターが好きで、
   今までこういうシチュエーションでは、ずいぶん気まずい雰囲気をギターに
   救われたものだ。

   ギターを弾き二〜三曲歌えば、「いいねえ。ねえ、あれ弾ける? じゃあ
   これは?」とにわかに場が盛り上がり、にぎやかに楽しいひとときが訪れる
   というわけだ。

   しめたと思い、了解を得てギターを手にした。
   当時流行っていた「二十二才の別れ」のイントロを弾き始めると、心持ち
   彼の目が輝いたような気がして、よしよしと歌い始めた。

   安心して調子が出てきて一番を歌い終わり、間奏を弾いていると突然……
   そう、ほんとうに突然、ギターをひったくるように彼が取り上げた。
   そして「あんた、うまいなあ。歌はもうええんや」と言った顔を見て、
   そのニタッとした目つきに身も凍る思いがした。

   私はヘビに睨まれたカエルのように動けなくなり、その彼の発した、
   次なる言葉にほんとうの狂気を感じたのである。



   「あんたな、知っとうや?あんたの家の二階な、二年前に女子高校生
    が首吊り自殺したんで。化けて出るらしいで…」




   ゾーとした私は、そんなばかなと言いつつ、とにかく一目散にと
   彼の部屋を後にした。(続きをお楽しみに…合掌!)    (ij452)






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